剣士のいる生活




「──どうした、顔がいつもに増して不細工になってんぞ」

ノックも無しに執務室に入ってきた家庭教師は、オレの顔を見るや否やそう言い放った。

「不細工で悪かったな!」

元々だよ!
いつもに増して、というフレーズにカチンと来るが、今はそれどころではない状況だ。
別段忙しいわけではないが、頭の中身はそれに比例しないのだった。

「どうした、何かあったのか?」

ここ暫く姿を見せていなかった家庭教師様は、先日ボンゴレ内部で起こった事件を知らないようだった。
周囲には事件という程の認識も無いだろうから、それも当然なのかもしれない。

「あったよ、ありましたともさ…!」

そもそも、頭から切り離そうと一心不乱に書類と格闘していたのだが。
一度そちらに意識を持って行かれたら、手にした書類の内容なんて頭に入りゃしない。
机の上に、手にしていたそれを放ってから目頭を揉むように押さえた。それが心地良く感じるという事は、やはり疲れている証拠なのかも知れない。
一先ず落ち着く為に一呼吸置いてから、改めてリボーンに視線を移した。

「……山本が大怪我してね」

「その様子だと、一応生きてんだな」
「うん……斬られた場所が悪かったのか、最初は血が止まらなくてさ、本当に焦ったよ」
「あいつにしちゃあ珍しいな。昔は力量も鑑みずに突っ込んでた事もあったが」

──ああ見えて、頭に血が上ると中々下りていかねぇ。
それはもう、若気の到りと言って良いだろう。
最近では幹部としての体裁もあり、多少は立場を弁えているのか、あまり無茶な戦いをしないようにしている。

「ま、今は意識も回復してるけど、まだまだベッドの住人さ」

暫く安静にしていてもらわないと困る、と息を吐き出すように零す。

「しかし、山本が動くような大仕事があるなんて聞いてねーぞ」

今や大ボンゴレの幹部であり、雨の守護者でもある山本武だ。
そんな彼が前線に出るような面倒な仕事なら、自然と自分の耳に入っても可笑しくない、と。昔から変わらないボルサリーノをいじりながら彼は言った。
隙間から窺える十年近く変わらない黒いつぶらな瞳は、やはり真剣な色を映している。


「何か手を打ってあんのか?」
「え…あー、うん。一応ね。XANXUSにも言っておいたし。
──でもさ、今回の件は仕事絡みじゃないんだよー」

言って、はぁと盛大に溜息をつく。

「なんだダメツナ、ハッキリ言いやがれ」
「……スクアーロ」
「は?」
「だ・か・ら!山本に怪我させたのスクアーロなんだってば…!」
「…それでお前腹立ててたのか」

ボンゴレの特殊暗殺部隊の副長であるスベルビ・スクアーロは、同じファミリーの者でも足がすくむほど凄腕の剣士だ。
今やその道を志す者に知らぬ者はおらず、山本武と並んで二人はボンゴレ二大剣豪とまで呼ばれ畏怖されている。
そんな彼らは昔から懇意であったのだが、どうしようもない病気持ちでもあった。

「要は、あいつらがハシャギ過ぎたわけだな」

阿保らしい、と赤子は呆れたように言うが、そんな軽い物言いにこちらは眉根を寄せる。

「はしゃぐなんて可愛いもんじゃないって」

暇や時間があれば、熱を帯びた瞳がかち合えば、途端に刃を抜くのだ。
お互いの実力を試すために、お互いの存在を確かめ合うために。

ただの稽古、ただの手合わせ、ただの喧嘩。

前者であれば、大した参事も起きはしない。
しかし、後に続く他の理由から始まったものは、途中からエスカレートしてしまって、歯止めが効かなくなる事も珍しくなかった。

鈍く煌めく二つの刃が血を求めるが如く、刹那に踊るのを目にしたのは何も自分達だけではない。

「一歩間違ったら命を落としてたんだから…」

そう、特に今回は酷かったのだ。

あの時の光景が甦れば、怒りなんてそっちのけで背筋が冷える心地がした。
命がこぼれ落ちる感覚。
もう幾度も経験してきたが、それが自分の親友だとすれば、絶対的な恐怖と絶望が押し寄せる。

意識が回復してから「わりっ」と、いつものノリで言う姿を見て、今回ばかりは簡単に許してやるものかと思った。

「山本はそう簡単にくたばるようなタマじゃねぇぞ」
「そうじゃないんだって」

失う恐怖は命ばかりではない。

「だんだん山本が、“あっち側”に近付いているような気がして──」

怖いんだ。

“生まれながらの殺し屋”と、彼を称したのはこの赤ん坊だった。
まだ山本も自分も、戦う事を知り始めたばかりの幼い子供だった。

だが、あれから5年以上経った今現在、まさに彼はその言葉を体言させているのではないか?

思えばあの男と刃を交えてからだ。全てはそこから始まった。
あの鮮烈な出会いに、彼の中に眠る血は目覚めたのだろう。
揺さ振った男は、自分が知る限り今も昔も人殺しだ。
『血に飢えた貪欲な人喰い鮫』
そんな例えが嫌な程しっくり来る。


目覚めさせた後もしつこく彼に付き纏い、血の匂いで誘惑した。
思い出すだけで腹立たしい。
だって結局彼は、あの鮫の功績で『此処』に在るのだ。

「なんだか山本が、いつか、オレの知らない山本になってしまいそうだ…」

ぽつりと呟いた。
彼にはずっと笑っていてほしいと願っている(出来れば自分の隣で、というのはエゴに過ぎないと、昔あの銀髪に指摘されたので十分理解しているつもりだ)。
だが、人の命を絶って笑うような彼を見たくはない。

「──ダメツナが、何女々しい事言ってやがんだ」
「い、って!」

勢いがついたドロップキックが頭にクリーンヒットした。
人様を足蹴にした赤ん坊は、華麗に執務机に着地する。
一気に二人の距離が縮まった。

「お前はボスだぞ。今だにダメっぷりの抜けないな」
「うるさいな…!」

蹴られた箇所を摩りながらする反論も、いつもより元気が出ない。
そんな様子に「しょうがねえな」と零し、リボーンはぴしゃりと言い放つ。


「良いから聞け。
お前は山本のボスなんだぞ。部下の面倒見んのは他でもない、お前自身だ」
「…うん」

静かに聞き入る。
こういう時の彼の言葉は、混じり気の無い真実のみだからだ。

「あの鮫に好き勝手させてんじゃねぇ。
今の山本を手放したくないってんならその努力をしろ。
お前はそうでなくとも山本にはベタ甘だからな」

甘やかし過ぎだ、とぼやかれた。

「…うん、自覚あるよ」

笑う顔は少し苦味を帯びる。
山本のあの笑顔を見ると、どんなことも許してしまいたくなる。許さないと宣言した後でもだ。

「そっか…そうだよな。サンキュー、リボーン」

幸か不幸か、自分は彼らの上司なのだ。
あまり権限を行使するのは好きではないが、必要な時もあるのだと、数年のボス生活で学んだのだから。







「──と、いうわけで、三ヶ月間ヴァリアーアジトへの出入り禁止」
「へ?」

一瞬何を告げられたのかを理解できず、彼の口から吐息のような間の抜けた声が洩れた。

「期間中、スクアーロと会うのも厳禁ね」
「ちょ──ツナ…!」

「異論は認めません」

反論する暇も与えずにっこりと笑むと、長い付き合いの親友は、困ったように笑うのだった。


(ああもう!そんな顔しないでよ山本!また許しちゃうじゃないか…!)




(2010/7/29/UP)

10年後に届かない、数年後の未来設定。

おちゅな様は基本的に山本にはゲロ甘ですよね。

スク出ないけどスク山です。

ツナ山ツナっぽいけどスク山ですと言い張ってみる。



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